そこは、代々木八幡駅から代々木公園方面へ南に7分ほど歩いた国道沿いにある。
初めての場所なのでスマホの地図を確認しながら代々木八幡駅から最短距離の路地を進む。
そしてもうすぐ着く頃だった。
店の40mほど手前で足を止め、いや、ほぼ無意識で止まり右を向いていた。
その公園の入口には、ギンギンに興味をそそる古びた看板が立っていた。
路地を挟んだ左側には『東京衣装株式会社』との表札を出すビルがある。何かのテレビ番組で見たことがあるなぁと思いながらも、そんなことはすぐに忘れ、吸い込まれるように公園に入っていく。
「なんだ、この感じは……?」
言葉を仕事にしているはずなのに、その空気を表現する言葉が思い浮かばない。
そんな不思議な雰囲気が立ち込めていた。この都会の国道沿いに、中々の広さがある公園。
左手には多目的のグラウンドが金網に仕切られていたが、ボクの視線は右に向いたままどんどんと公園内に入っていく。
木製の、滑り台ではない坂。なぜか文字が逆さに設置されているバスケットゴール。そしてなんと、お相撲もできる土俵もあった。
置かれているチラシを見ると、「渋谷はるのおがわプレーパーク」と書かれており、「『はるプレ』でよろしくお願いします!」とも書かれている。ので、はるプレと呼ぶことにする。
チラシでは子供たちが楽しそうに各遊戯で遊んでいる姿が印刷されているが、なぜか、今ここには、そんな楽しげな雰囲気は感じ取れなかった。
今が夕刻前だからではなく、恐らくもう数ヶ月以上は何の整備もされていない。
遊具の一つに触れると、ホコリが溜まっている。
こんな楽しそうなチラシまで作って、しかも開園10年目とも書かれている。
一体何があったのだろうか……。
ネットで検索すれば、この荒んだ何かしらの理由がわかるかもしれない。しかし検索なんてしない。インターネットの世界は時に、知らなくていいことを知ってしまうから。全ては少子化のせい。そう結論づけることにした。
そんなこんなで『はるプレ』を出て少し進むと、地図通りの場所にあった。
ーーPARK SIDE BURGER SHOP『ARMS』。
こじんまりとした、よく言えば街に合った小じゃれたハンバーガー屋さん。
入りやすくも入りにくくもないドアを開け、中に入った。
嫁と2人です、と伝え、外が見える席に座る。
ここもやはりほとんどが木造で内装も木製。
少しばかりのお尻の痛さを我慢しながら、メニューを開く。
同時に、坊主頭でピンクのTシャツを着た店員が水を持ってくる。
会釈をして早速メニューを開いた。
この瞬間が人生の中で何よりも好き。
今から、嬉しいことしか待っていない。どのサンドウィッチにするかを選び、注文し、心待ちにし、出てきたサンドウィッチに舌鼓を打つ。
そもそもハンバーガー屋さんなのだが、サンドウィッチのメニューも豊富。
この瞬間こそ、遠足の前日のような、これから始まることは全て楽しいとわかっているときの気持ち。
嬉しすぎて、目の前の嫁の存在すら忘れそうになる。
そう、豊富でなければボクは来ない。写真表記のないもののあるが、そこは想像しながらじっくりとメニュー紹介を読む。
うん、実に、いい。
落ち込んだとき、誰かの背中にそっと耳を付けたときのように、いい。
英語表記を主とし、日本語はあくまでもフリガナ扱い。そこがいい。
「本場の味を、わざわざ東京の代々木八幡に持ってきてやったぞ」の精神がいい。
悩みに悩み、2種類を選択。
アメリカサンドウィッチの定番、『グリルドチーズ』1190円(+税)。
そして無類のテリヤキチキン好きのボクは抑えられなかった。
『テリヤキチキン』1050円(+税)。
ま、家賃も高いのであろう、と値段には目をつぶる。
この2種類を頼み、手頃な値段のカフェラテも注文する。
こういったハンバーガー屋さんなどは、特に飲料で儲けを出している。
一杯が500円とか600円とか、原価数円のクソまずいコーヒーを『ルノアール』級の値段で出すのが定番。
しかし目の前に運ばれてきたカフェラテは、ミルクがきめ細かく、カフェの味もコクがしっかりしていて美味しい。
ボクが以前から唱えているように、実はコーヒーとサンドウィッチは合わない。
それをわかっているかのように、早めにカフェラテを持ってくる感じ。出来る店、いや、出来る店員、いや、出来るピンク坊主。
そして2、3口、カフェラテをすすり、正面に座る嫁と「お腹減ったね」なんて笑顔を傾けているときだった。
やってきた、ボクのサンドウィッチ。
『グリルドチーズ』と『テリヤキチキン』が同時に運ばれてきた。
ただ、テーブルに置かれたそれを見て、ボクは多少のガッカリを覚えた。
メニュー写真と全く違う。写真のチーズサンドは3等分されて綺麗に並べられているのだが、目の前のチーズサンドは斜めに切っただけの三角形仕様の四角形。
ホットサンドによくある切り方。しかも想像より薄い。まぁいい。よくあること。
では『グリルドチーズ』を一口―――はい、73点。
あまり出ない70点台。
顔はブサイクだが歌が上手い歌手のよう。
味覚の70%は視覚からの情報だと聞いたことがあるが、それは違う。
見た目で20点でも、味で73点にまで跳ね上がる。
チェダーチーズとスイスチーズが見た目よりもモリモリ入っている。
とろける、とのチープな表現はあまり使いたくないが、とろける。
とろとろチーズの満足感とサルサソースが口いっぱいに広がり、モチャモチャと口内の全面でチーズを感じる。
やはり、チーズは焼いたほうが数倍美味い。ワインなどを飲む時はそのまま食べたりもするようだが、焼いてとろけたチーズには完全に勝てない。因みに、ボクはお酒は飲めない。
いや~、芳醇、濃厚、満足。素晴らしい。
ではでは、テリヤキチキンに挑む。
これはボクが以前から唱えていることだが、テリヤキチキンを考えた人は、飛行機を発明した人に匹敵する。
では『テリヤキチキン』を一口―――はい、71点。
いい、実にいい。
想像の数%上をいく味。いい。これでいいの。
変にバジルだのガーリックだのを大量に入れて鶏の旨みをごまかしていない。
先駆者が生み出した醤油、みりん、砂糖のアンサンブル。
チェダーチーズ、ゆで卵、キュウリ、レタスの助け舟。
そして、mg単位で計ったかのようなからしマヨネーズの量。
ホットサンドのサクサク感なんてどうでもいい。
とにかく、焼かれたパンとテリヤキチキンのタッグが超絶に愛おしくなる。
最後に、付け合せのフライドポテトをムシャムシャ食べながら思う。
とにもかくにも、ここは本当に美味い店だと言える。
店を出ると、頃合よく夕陽が沈んでいた。
あ、そういえば、店に行く前に近くの代々木八幡宮にも寄った。中吉であった。
PARK SIDE BURGER SHOP『ARMS』
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